広島国語屋本舗現古館 館長の小林です。
「選択肢問題は記述問題より簡単」
中学受験生がよくしがちな誤解なのですが、実は高校生になってもその感覚でいう生徒がほとんどです。
現古館に通う生徒たちは、私との口頭試問の中で、選択肢問題であるがゆえの困難に嫌と言うほどぶつかってもらっているのですが、その困難の具体的な内容について、今回お伝えしようと思います。

選択肢問題=想定解の言い換え
記述問題の対策を急ぐ人にはまず確認しておきたい前提があります。
そもそも、選択肢問題と記述問題の違いを正しく捉えられているでしょうか。
選択肢問題と記述問題は、「解き方」の入り口が共通しています。
どちらもまずは設問で問われている内容を正確に把握し、傍線部を一文に戻して、指示語や接続語といった“手がかり”を整理することから始まります。
そして、問われている内容に答えるために必要な説明の範囲を本文中で特定し、その部分を根拠として考える。
ここまでのプロセスは共通です。
違いが生まれるのは、その想定解をどう扱うかという点です。
記述問題では、自分で組み立てたその想定解がそのまま解答になります。
一方、選択肢問題では、その想定解に近い内容を選択肢の中から“言い換え表現”として探し出さなければなりません。
この「言い換え表現」を見抜く過程に、選択肢問題特有の困難があります。
選択肢には、生徒が誤読する可能性を逆手に取った“罠”がちりばめられており、たとえ本文理解が正しい方向を向いていても、誤答肢に引き寄せられる危険があるのです。
だからこそ、選択肢問題を解くには、本文の理解に加えて、明確な判断基準をもって「消去」していく力が求められます。

口頭試問による根拠の確認
たとえば、先日の授業での出来事です。
ある生徒が「一度選んだ選択肢を変えて間違えた」とぼやいていました。
私はこう問いました。
「なぜ変えたのか説明できる?」
「間違えたということは、正答を“切った”ということだけど、どこで切った?」
私は基本的に、一度選んだ選択肢は安易に変えない方がよいと考えています。
ただし、以下の2つの条件のいずれかに当てはまる場合は、例外です。
①最初に選んだ選択肢を、本文を根拠にして明確に否定できる情報が新たに見つかった場合。
②新たに選びたい選択肢について、最初に選ばなかった理由を、本文の根拠をもとに否定できた場合。
このどちらにも当てはまらない選び直しは、ただ“それらしく見える”誤答肢の罠にまんまと引っかかっているにすぎないのです。
正答している問いにも根拠を問いますので生徒は疲れると思いますが、国語の読解力、思考力を鍛えるのに近道は存在しません。
正解している選択肢は〇を付けて終わり。
国語の自学にありがちな何も身につかない学習は、現古館では一切許容されません。

選択肢問題にどう向き合うか
そもそも、文章の理解度が最も高い瞬間とは、本文を読み終えて、選択肢に触れる“前”の段階です。
だからこそ、本文を読んだ直後に立てた想定解を信頼し、それを軸にして選択肢に向かうことが重要なのです。
学年によっては、想定解と本文の表現がズバリそのまま正答になるような問題もあります。
しかし、生徒たちが最終的に到達する大学入試の世界は、そのようなレベルで語ることはできません。
難関校ほど、本文の意味をより深く捉え、それを別の形で表現する力――つまり、「意味の本質」を言い換えで掴む力が問われます。
ですから、記述問題の対策を急ぐ方にこそ、「選択肢問題にどう向き合うか」を丁寧に見直していただきたいのです。
選択肢問題への具体的な戦略を持つことは、国語の読解力と論理力を鍛える極めて本質的な営みにほかなりません。